vintagewinesのブログ

歳を重ねたワインが大好きです(^^)

ドイツワイン紀行 ハインツ・ワグナー家 訪問

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ザールといえばエゴンミュラーですが、この方のワインを御存知でしょうか?

男の名はハインツ・ワグナー。

2002年のこと。

トリアー駅を出た2両編成のローカル列車はザール川流域にて、朝の濃霧に包まれた。

世界のワグナーさんと会う朝は辺り一面、オフホワイトの中。
秋には水面から立ちのぼる霧が寒さから葡萄を守ると聞いていたが、まさかこれほどとは…

ドイツ鉄道(DB)一筋の紳士という風貌の車掌さんに尋ねてみる。

「凄い霧ですね、何も見えません…秋は、多いのですか?」
「毎日だよ、だから車より鉄道が安全さ(笑)でも10時には全部消えるよ。今日も快晴だろう。」

他にも国内列車、ユーロシティ(ヨーロッパ間国際特急)のことなど
ドイツ訛り英語で一生懸命多くの質問に答えてくれる。それが心から嬉しい。
ストックホルム行きにも乗ってみたいものだ。(海の部分はフェリーに列車ごと積み込む)

ザールブルク駅に到着。ワグナー博士は笑顔で迎えてくれました。
博士(ドクトール)というより、おじいちゃんと敬愛を込めて
呼びたくなるような優しい雰囲気の60代。この道一筋、45年。

駅前の立派なお屋敷がそこにありました。
古い家の中は静寂。いや無音…奥様と二人暮しでした。

地下セラーに続く階段は石造りで歴史を感じさせ、
静かに眠り続ける膨大な量のボトルが、45年の職人仕事を物語ってます。
1971年発見!「これ僕の生まれ年のワインです!」と視線を送ると
「あぁ、そうなのか」と軽く流されてしまいました…。

応接室に招かれて早速10種類のテイスティング
以前から大好きだったワインを自宅で頂けるなんて夢のよう…
しかも自分一人のために10本も開けてくれた。

充実した果実味、上品な甘味、土のミネラル感、グラスにつくくらいの気泡、
どれも完璧といっていい作品でした。

ワグナー家でテースティング出来る事の喜び。
これが最後かもしれないと考えると、グラスを持つ手が震え、
涙が零れないように天井を見上げ、慎重に杯を重ね、慈しむように味わう。
ワグナーさんの作品は、40年以上の歴史があるから。

「ザールブルガー ラウシュ ハルプトロッケン」
シャープでドライな語り口は凛々しいが、どこか優しい。

「ザールブルガー ラウシュ QbA」
これもまた優しい甘さだが、毅然と存在感を示している。
性格がストレートに出ているようでした。

ワイン談義は、二時間を超え空腹のまま、古城にBMWで連れてってくれました。
なんと20年は乗ってるらしく走行距離は18万キロ!
村が見渡せ、ワグナー家の急坂になっている畑(崖?)も一望できます。
朝の濃霧が信じられない快晴!

「急な畑だから近所でも廃業、廃業…最近のドイツの若者ときたら…
私は一年中、葡萄の木を扱えることに幸せを感じるのじゃが…」

なんと収穫時期以外、ほぼ一人で全ての葡萄とワインの面倒を見ているそうです。
腰を痛めてるらしく、あの崖(葡萄畑)に上がり、黙々と葡萄達の世話をするのは
ゲルマン魂が成せるハードな仕事でしょう。
畑を遠くに眺めながら背中は寂しそうでした。

ワイン造りは、なんと1337年から続いてるというから彼は本物の伝統継承者。
「君は自分の仕事に誇りを持ってるか?」
「えぇ、もちろん!最近は運命を感じます!」

「若いうちは、広く全てを受け入れること。
しかし一度決めたら結婚と同じで最後まで添い遂げるべきじゃ。
そして感謝を忘れたらいかん。仕事も人なくしては成り立たないが、
また仕事のおかげで君は成り立っておることに感謝するべきじゃ。

ワシのやってることは時代の流れに逆らってるかもしれん。
みんな非効率と言うが正しいと信じておる。
天国に行っても急坂でワインを造ってるじゃろうなぁ(笑)」

堪え切れず涙がこぼれてしまいました。

みなぎる自信。しかし感謝も忘れない。
ハインツ・ワグナーこそ「マイスター(職人)」と呼ぶに相応しい。
彼のワインに関われることを心から誇りに思います。

ドラゴンクエストに出てきそうな小さな村、ザールブルクにて、
おじいちゃんが、いつまでも元気にリースリングを造り続けることを祈ってます。
この思い出を一生忘れることはありません。

現在は娘さん夫婦が造りに戻ってきたそうです。おめでとう!

●ザールブルガー ラウシュ ハルプトロッケン 1680円
●ザールブルガー ラウシュ QbA       1680円  


●ザールブルガー クップ カビネット ハルプトロッケン 2004
純粋、白桃、リンゴを想わせるフレッシュな香り、リースリングのオイリーなニュアンスと
グラスに気泡が付着するほどの爽快さ。これは美味しい!
日本に少量しか入荷(生産)していない銘柄で地元用に30ケースしか生産されてません。
僅か20ケースのみ輸入され、現地訪問していた当店は12本お分け頂けました。
なんと幸運な…。  税込2680円